100万人のデータから、高齢者の脆弱性(フレイル)を予測する(AI×医療)【論文】

   
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最終更新日:2020/08/10

現在の技術ではまだ、老化を止めることは難しい。それでも、老化とうまく付き合っていくことはできる。

課題:高齢者の脆弱性(フレイル)は社会的な問題である

高齢者人口が飛躍的に増加する中、高齢化に伴う健康課題は、医学的にも社会的にも大きな関心の的となっている。2017年の国連報告書によると、60歳以上の高齢者の世界人口は2000年には6億人であり、2050年には約20億人に増加すると予測されている。

高齢化に伴う深刻な問題の一つが、脆弱性(フレイル)状態の有病率の増加がある。フレイルは、老化によって心身が衰えた状態であり、一般的に日常活動における移動制限の増加につながる。加齢に関連するものとして最近定義された重要な状態の一つである。


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フレイルに対して、研究者らはどのような研究を行っているのだろうか。今回は、イタリアのトリノ大学のAdane Tarekegnらの研究を紹介したい。

彼らは、高齢者のフレイル状態の予測モデルの開発を試みたのだった。

テーマ:機械学習を用いてフレイルを予測する

まずはAdane Tarekegnらの研究におけるミッション・手法・結果をまとめた。

✔️ミッション
高齢者のフレイル状態(死亡率、緊急入院、障害、骨折、 予防可能な入院 、コードレッドでの救急外来受診)を予測する。

✔️解決手法
65歳以上の高齢者1,095,612人分のデータベースから、複数の機械学習アルゴリズムを用いて予測した。

✔️結果
死亡率は最高79%、緊急入院は最高73%の予測精度を達成した。

ミッションから説明していく。

目的:フレイルによる諸問題の発生を予測したい






フレイルと想定される人々は、運動障害、転倒による傷害、入院、死亡を含んだこれらの望まれない問題に対し特に脆弱である。これらの健康上の問題は、生活の質の低下や医療や社会的ケアへの需要の増加につながり、個人や医療制度へのコストの増加と関連している。

手法:100万人のビックデータと複数のアルゴリズムを用いた

Adane Tarekegnらは、64個の変数(入力変数58個、出力変数6個)が含まれる65歳以上の高齢者1,095,612人の行政健康データベースを使用し、異なる機械学習手法を用いて高齢者のフレイル状態の予測モデルを開発した。

表1.データセットの出力変数の詳細





データセット

データセットは、臨床的側面や社会経済的側面を含む多様な説明変数と、対象者ごとに、死亡率、障害、緊急入院、骨折、予防可能な入院、コードレッドでの救急外来受診への6つの目的変数から構成された。また、リサンプリング処理によってデータの不均衡を解消した。

アルゴリズム

人工ニューラルネットワーク(ANN)、遺伝的プログラミング(GP)、サポートベクターマシン(SVM)、ランダムフォレスト(RF)、ロジスティック回帰(LR)、決定木(DT)を用いてアルゴリズム間の比較を行った。

評価指標

評価関数には、精度、 真陽性率 (TPR)、真陰性率(TNR)、F1スコアを用いた。

図1.予測機械学習モデルの実験ワークフロー

結果:死亡率は最高79%、緊急入院は最高73%の予測精度を達成した

結果、 死亡率予測では、ANN(精度0.78、F1スコア0.79)とSVM(精度0.79、F1スコア0.78)が他の予測よりも高い性能を示した。 すべてのモデルで、コードレッドによる救急外来受診の予測が精度が低く、緊急入院の予測では、すべての評価指標において他のモデルと比較して、SVMのみがより優れた性能(精度 0.73、F1スコア 0.76)を達成した。

表2.10分割交差検証を用いたモデルの予測結果
表3.10分割交差検証を用いたモデルの予測結果

機械学習モデルの予測性能は、フレイルの問題とモデルの違いにより大きく異なることがわかった。さらなる改善を行うことで、より優れた性能を持つモデルを構築できれば、フレイル高齢者の早期発見や予測するための支援ツール開発のベースとして利用することが可能であろう。

研究紹介は以上だ。

本研究から、さらにフレイルの予測性能を高めることにより、今後増え続ける高齢者のフレイルを早期に予測し、予防するための介入へと繋がって行くことが期待される。

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この記事で取り扱った論文:Tarekegn A, Ricceri F, Costa G, Ferracin E, Giacobini M Predictive Modeling for Frailty Conditions in Elderly People: Machine Learning Approaches JMIR Med Inform 2020;8(6):e16678- DOI



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Takashi Kawagoe, Ph.D.

投稿者の過去記事

転倒予測AI・メディカルAI・医療データサイエンスを専門としています。人工知能学会、日本メディカルAI学会等所属

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