量子機械学習の現状と今後の可能性(後編)〜期待の裏付け〜

   

量子機械学習(QML)は新しい成長研究分野になってきています。様々な国で多くのアプリケーションが登場しています。
量子コンピューティングの成果や進歩は今や世界で注目されています。
従来の古典的な機械学習へQMLの利点や特性をどのように適用させて行くかが求められています。

前編では、近年までに報告されているQMLアルゴリズムの紹介を中心に行ってきました。
後編は、なぜQMLが必要なのか?、QMLを導入することで解決できることや将来の可能性についてレポートします。

前回の記事

量子機械学習の現状と今後の可能性(前編)

▼論文情報

タイトル:Classification with Quantum Machine Learning: A Survey
著者: Zainab Abohashimaほか3名
所属機関: Faculty of Computer Science, Nahda Universityほか(エジプト)
掲載日:2020年6月
URL:arxiv.org/abs/2006.12270

なぜ量子機械学習(QML)が求められているのか?

従来の古典的機械学習には、まだ複雑な問題やチャレンジすべき課題が残っています。
その一つとして、 学習フェーズでは、データサイズが増えるにつれてトレーニング時間とメモリ消費量が増加します。
より高い精度とパフォーマンスを低コストの学習で実現することは、古典的なアルゴリズムでは困難な作業です。特に高次元でカーネルを推定することや、固有ベクトルを特定し、複雑な最適化問題を解くことは困難とされています。

QMLは機械学習における実行時間と効率性について性能を向上させることができます。
そこに目をつけたD-wave社は、中央処理装置(CPU)、グラフィックス処理装置(GPU)、および量子アニーリングコンピューターを基盤とした「Quadrant」アルゴリズムを開発しました。
「Quadrant」アルゴリズムは、従来の深層学習やMLアルゴリズムよりもより大きなデータを低コストのトレーニングデータでパフォーマンスを向上させることができます。

つぎに、いかにして機械学習が強くなるのか、説明します。

量子コンピューティングは古典的な機械学習をどのように強化するのか?

量子コンピューティングは、2つの異なる方法により従来のアルゴリズムを強化することができます。

第一の方法は、量子コンピューターやシミュレーターに古典的なアルゴリズムを実装することです。この方法では、古典的なデータを量子データにエンコードする必要があります。

第二の方法は、振幅増幅*1やグローバーのアルゴリズム*2、量子位相推定*3、変分量子アルゴリズム*4、量子アニーリング*5といった量子アルゴリズムや量子サブルーチンを活用したQMLアルゴリズムを構築することです。

【注釈】
*1:特定の量子状態の振幅のみを増幅させること。
*2N個の要素をもつ未整序データベースの中から、O(N1/2)のオーダーの計算量と、O(logN)のオーダーの記憶領域を消費する探索問題を解くための量子コンピュータのアルゴリズム。
*3:ユニタリ行列の固有値を量子コンピューターによって計算するアルゴリズム 。
*4:量子コンピュータを用いて適当なパラメータを持った波動関数を作り出し、その波動関数に依存する何らかの目的関数を逐次的に最小(最大)化するアルゴリズム。
*5:量子ゆらぎを用いた過程によって、解候補(候補状態)の任意の集合から任意の目的関数の最小値を探す方法。

ここで代表的な量子アルゴリズムをいくつかご紹介します。

量子フーリエ変換(QFT)

量子フーリエ変換(QFT)は、量子位相推定アルゴリズムやショアのアルゴリズム *1などの量子アルゴリズムで中核となる処理です。QFTは、逆離散フーリエ変換の量子バージョンです。QFTを扱うことで、処理速度が指数関数的に向上します。

【注釈】
*1:素因数分解問題を高速に(多項式時間で)解くことができるアルゴリズム

量子位相推定(QPE)

量子位相推定(QPE)は、量子アルゴリズムやQMLアルゴリズムで最も重要なサブルーチンの1つです。QPEは、QFTサブルーチンに基づいています。
QPEアルゴリズムは、ユニタリ行列(U)の固有値または、位相(𝜃)の最適な近似値を見つけることを目的としていて、次式で表されます。
  U|φ⟩= 𝑒2𝜋𝑖 𝜃 |φ⟩  (0 ≤ θ < 1, |φ⟩: 固有ベクトル)

振幅増幅(AA)

振幅増幅 (AA)は、量子干渉とも呼ばれ、基本的なサブルーチンの1つであり、グローバーのアルゴリズムの重要な処理です。
振幅増幅(AA)の主な目的は、任意の状態からターゲット状態への振幅(Р)の確度を高めることです。
次の式を使用して、振幅の確度を増幅させます。
1 – (𝑚2 ×(Р)/3) (𝑚2 (Р))   (m:反復回数, Р :確度)

各アプリケーションで用いられている量子サブルーチンを表1に示します。
表1から量子フーリエ変換(QFT)や変分量子アルゴリズムは、ほとんどのアルゴリズムやアプリケーションで最も一般的に使用されるサブルーチンであることがわかります。

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表1. 各アプリケーションにおける量子サブルーチンの種類

QMLの課題と将来の方向性

QMLの課題は、以下の3つのカテゴリでそれぞれ挙げられます。
①小規模量子コンピューター
②エンコード方法
③新しいQML技術
各QMLの課題と将来の方向性についてご紹介したいと思います。

小規模量子コンピューター

量子コンピューターの重要課題は、大きなビット数を扱える量子コンピューターを構築し、QMLをテストし、大量のデータを処理できるようにすることです。図1に示すように、量子コンピューターが扱える量子ビット数は年々大きくなってきています。Rigetti、IBM、Q-Wave、Xanadu、Google、Microsoftなどさまざまな企業で量子マシンが登場しています。

図1. 量子コンピューターと量子ビットの関係

これまで、量子コンピューターは小規模で開発されており、限られたデータ量で使用されています。 一般的に量子ビット数を制限すると、多くの重要なデータが失われるため、量子デバイス上でビッグデータを処理することができなくなります。
そこで研究者達は、量子ビット数において互換性のあるNISQ(noisy intermediate-scale quantum)マシンを開発しました。NISQとは、小中規模でノイズ含む量子コンピュータのことで、分子同士の化学反応等をシミュレートする量子化学計算等において、100qubit程度のノイズあり量子コンピュータでも古典コンピュータを上回るかもしれないと言われています。
今後も量子ビット数の増加と共に量子マシンの加速化は期待されています。

エンコード方法

データを量子状態にエンコードすることはQMLの課題の1つです。
このプロセスは、古典的なデータから量子データ(画像やビッグデータなど)にマッピングするために高い消費時間と電力が必要です。
2020年にLaRoseら†1は、量子システムにデータをロードするために最適なエンコード方法の選択により、ノイズ量子状態でロバスト性のある二項量子分類器を発表しました。同じデータに複数のエンコードデータを適用し、モデルの精度を向上させています。

【文献情報】
1:LaRose R, Coyle B. Robust data encodings for quantum classifiers. arXiv preprint arXiv:200301695. 2020.

新しいQML技術

近い将来、研究者達は量子ハードウェアで互換性のある新しい理論を開発し、MLアルゴリズムに適用していくと考えています。新しい理論や量子サブルーチンは、MLの課題を解決し、パフォーマンスを向上させていくでしょう。

それと同時に、いくつかのQMLアルゴリズムの派生バージョンが生まれると思います。
例えば、量子ニューラルネットワーク(QNN)、量子ディープラーニング(QDL)、量子インスパイアML、量子強化学習などです。
また量子変分回路によって新しい分類技術を開発し、量子回路の深さの削減が可能になると思います。

最後に

全2回(前編、後編)に渡り、量子機械学習の現状と今後の可能性についてレポートしてきました。
従来のコンピューティングの古典的の手法からさまざまな問題をより効果的かつ的確に改善する量子機械学習手法の最新論文をご紹介しました。
QMLアルゴリズムは、パフォーマンスと速度において古典的MLを上回っている論文も数多く発表されています。しかしながら計算値において性能保障されない面もあり、課題が多くあるのも現実です。
実社会に適用できるレベルになれば、さまざま分野で技術革新が起きると考えれます。今後も引き続き注目して行きたいです。

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