量子機械学習の現状と今後の可能性(前編)〜AIは更に劇的に進化する〜

   

現在ではよく知られているように、機械学習によりデータ分析、特徴選択、意思決定、パターン分類や将来の予測といった、さまざまなアプリケーションが登場し、人間の意思決定なしでより高い精度とパフォーマンスを実現できるようになっています。

しかしながら、データの種類(画像、テキスト、ビデオ、録音オーディオなど)や計算リソースの大幅な増加により、高コストの学習やカーネル推定など機械学習特有の問題も発生しています。

一方、過去30年間以上に渡り、暗号化、人工知能(AI)、通信などのさまざまなアプリケーションにおいて、量子コンピューティング(QC)が使用されています。

今回の連載(全2回)では、量子コンピューティングによる量子機械学習の最近の研究成果を挙げながら、今後の可能性についてレポートします。

▼論文情報

タイトル:Classification with Quantum Machine Learning: A Survey
著者: Zainab Abohashimaほか3名
所属機関: Faculty of Computer Science, Nahda Universityほか(エジプト)
掲載日:2020年6月
URL:arxiv.org/abs/2006.12270

量子機械学習(QML)は単なるパラダイムではない

量子コンピューティング は、情報処理に対して量子力学の仮定と特性(量子ビット、干渉、重ね合わせ、もつれ)に基づいています。

近年、古典的MLの改善を目的とした量子コンピューティングの法則による量子機械学習(QML)と呼ばれる新しい概念が導入されています。

QMLは単なるパラダイムではありません。
最初に発表されたQMLは、2014年にRebentrost pら†1によって、ビッグデータの分類のための量子サポートベクターマシン(QSVM)が発表されました。
QSVMは、古典的SVMよりも指数関数的に速度が向上しました。

2019年には、Sergioliら†2により量子論*1に基づいた量子二項分類器を提案しました。この分類器はさまざまな古典的モデルと比較して高いパフォーマンスを達成しています。

また、量子ニューラルネットワーク(QNN)においても、量子多層パーセプトロンNN、量子ドット*2NN、量子畳み込みNNなどさまざまなモデルが開発されています。

【注釈】
*1:ある物理量が任意の値を取ることができず、特定の離散的な値しかとることができない、すなわち量子化を受けるような全ての現象と効果を扱う学問。
*2: 3次元全ての方向から移動方向が制限された電子の状態のこと。

【文献情報】
1:Rebentrost P, Mohseni M, Lloyd S. Quantum support vector machine for big data classification. Physical review letters. 2014;113(13):130503.
2:Sergioli G, Giuntini R, Freytes H. A new quantum approach to binary classification. PloS one. 2019;14(5).

QMLアルゴリズムは、主に3パターン

今まで研究されているQMLアルゴリズムの多くは、

  1. QMLアルゴリズム、
  2. 量子インスパイア ML
  3. ハイブリッド古典ML

の3パターンに分類されます(表1)。
アプリケーションは、がんの検出、乗り物や数字、文字の分類などさまざまです。

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表1. QMLアルゴリズムの一覧

1. QMLは古典的MLの量子バージョン

QMLアルゴリズムは、古典的MLの量子バージョンです。
実際の量子デバイスで実行できるアルゴリズムです。

Dennisら†1は、QA-SVMと呼ばれる量子アニーラデバイス*1(DW2000Q)にSVMを実装しました。
著者らは、コストエネルギーを最小限に抑えるためにQUBO形式*2を適用したSVMを用いて最適化や学習をするために量子アニーラーを使用しています。

Rebentrostら†2が提示したSVMアルゴリズムは、 量子コンピューター上でQSVMと呼ばれる非スパース行列*3を適用して処理します。
QSVMはビッグデータ二項分類器です。

【注釈】
*1:2014年にカナダのD-Wave社が開発した量子ビットの重ね合わせと量子ビット間の結合を利用し、最適な組み合わせを導くことに特化したコンピューター。
*2:Quadratic Unconstrained Binary Optimization (制約なし二次形式二値変数最適化)の略。QUBOの計算複雑度は古典的コンピュータで効率的に解く手法は発見されていない。古典的コンピュータと異なる原理で動作するイジングマシンと呼ばれる量子コンピューターによりQUBO問題を解くことが期待されている。
*3:0以外の数が数多く入っている密行列。

【文献情報】
1:Willsch D, Willsch M, De Raedt H, Michielsen K. Support vector machines on the D-Wave quantum annealer. Computer Physics Communications. 2020;248:107006.
2:Rebentrost P, Mohseni M, Lloyd S. Quantum support vector machine for big data classification. Physical review letters. 2014;113(13):130503.

2. 量子コンピューティング(QC)の原理を適用した量子インスパイア ML

量子インスパイアMLは、古典的な機械学習の方法を改善するために量子コンピューティング(QC)の原理を適用した学習アルゴリズムです。

Prayagら†1は、新しい量子インスパイア二項分類器(QIBC)を提案しました。
基本的な考え方は、決定理論*1や、古典的なML、量子力学の法則を利用した量子検出の理論に基づいています。
提案法は、KNN*2、SVM、およびその他の古典的な手法に匹敵する高精度な再現率とF-尺度を実現しています。

Sergioliら†2は、密行列と量子理論の公式に基づいて、Helstrom Quantum Centroid(HQC)と呼ばれる教師あり学習用の新しい量子インスパイア分類器を提案しました。
著者らは、さまざまな古典的モデルと比較して、14のデータセットでモデルのパフォーマンスを評価し、高い精度を達成しています。

【注釈】
*1:個別の意思決定について価値、不確かさといった事柄を数学的かつ統計的に確定し、それによって「最善の意思決定」を導き出す理論。 意思決定理論とも呼ばれる。ゲーム理論へ応用されることが多い。
*2k近傍法(k-nearest neighbor)の略。特徴空間における最も近い訓練例に基づいた分類の手法であり、パターン認識でよく使われる。

【文献情報】
1:Tiwari P, Melucci M. Towards a quantum-inspired binary classifier. IEEE Access. 2019;7:42354-72.
2:Sergioli G, Giuntini R, Freytes H. A new quantum approach to binary classification. PloS one. 2019;14(5).

3. 高パフォーマンスと学習コストの削減を実現する ハイブリッド古典ML

最後にハイブリッド古典MLは、量子アルゴリズムと古典的アルゴリズムを組み合わせて、より高いパフォーマンスと学習コストの削減を実現するアルゴリズムです。

Soumikら†1は、量子回路を使用して、単一量子システムによる新しい変分量子分類器を提案しました。本提案は、「シングルショットトレーニング*1」と呼ばれるトレーニングアルゴリズムでデータをN次元でエンコードします。シングルショットトレーニングの主な利点は、トレーニングに使用するパラメーターを少なくしつつ、高精度を維持できることです。

Mitaraiら†2は、小規模な量子デバイス上でも実装可能な分類、回帰、クラスタリングなどのさまざまなタスクを実行してハイブリッド量子古典技術を発表しました。
またJessica†3は博士論文の中で、データの欠測値を処理するための新しい量子古典的アルゴリズムを提案しています。
アルゴリズムの主な利点は、欠落したデータ値を処理するために確率分布で計算することです。

【注釈】
*1:機械学習が何千ものサンプルを学習する従来の機械学習モデルに対して、1 つまたはごく少量のトレーニングサンプルをアル ゴリズムに学習させる方式。

【文献情報】
1:Adhikary S, Dangwal S, Bhowmik D. Supervised learning with a quantum classifier using multi-level systems. Quantum Information Processing.2020;19(3):89.
2:Mitarai K, Negoro M, Kitagawa M, Fujii K. Quantum circuit learning. Physical Review A. 2018;98(3):032309.
3:Pointing J. Quantum Algorithm for Handling Missing Data. harvard. 2018.

発展途上なQMLアルゴリズム

現在開発されている代表的なQMLアルゴリズムの利点と制限事項は、表2でまとめています。分類精度や処理速度の面で成果を上げていますが、計算コストや高難度な実装、大容量な特徴データ処理の効率化など課題があり、高度な専門技術が必要とされています。

表2. QMLの利点と制限事項

今回の記事では、QMLアルゴリズムの紹介を中心に行ってきました。
次回(後編)は、なぜQMLが必要なのか?、QMLを導入することで解決できることや将来の可能性についてレポートします。

▼後編

量子機械学習の現状と今後の可能性(後編)〜期待の裏付け〜

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