「衝突死亡事故を防ぐ重要な要素をAIで導き出す!」現場にコミットする機械学習ノート【vol.37】

   

こんにちは。エンジニアライターの小原です。

連載「現場にコミットする機械学習ノート」では、論文を詳しく読み解きながら、現場で使えるAI実装のヒントを記録していきたいと思います。

↓はてなブックマークで応援お願いします!
このエントリーをはてなブックマークに追加

前回の記事では、「サッカーの試合結果への『天候』の影響をAIで調査!」を扱いました。

今回は、サウジアラビアのDepartment of Civil and Environmental Engineering, King Fahd University of Petroleum & MineralsのA. Jamalらが2020年10月に発表した「衝突死亡事故を防ぐ重要な要素をAIで導き出す!」に関する論文を扱っていきます。

もくじ
1章 交通事故の要因とは
2章 FNNで交通事故の要因を明らかに
2.1 研究目的:衝突事故の重症度因子はなにか
2.2 研究手法:重症度を予測するFNNモデルを提案
2.3 研究結果: 事故を防ぐために重要な要素を判明

■前回の記事:【vol.36】サッカーの試合結果への『天候』の影響をAIで調査!

1章
交通事故の要因とは

世界では交通事故で多くの人々が負傷しています。
日本でも令和元年には交通事故で約46万人が負傷し、約3200人が死亡しました。(参考)

そんな中、交通事故の要因をよりよく理解することは事故予測を向上させる上で重要です。しかし、交通事故は多くの要因が複雑に絡み合い、複雑に相互作用しているので理解することは難しいです。

そこでサウジアラビアのA. Jamalらは、衝突事故をニューラルネットを用いて分析しました。

2章
FNNで交通事故の要因を明らかに

まずはA. Jamalらの研究におけるミッション・手法・結果をまとめます。

✔️ミッション
交通事故による死亡事故の要因をよりよく理解したい

✔️解決手法
FNNで交通事故データから重症度を予測し、関係する因子を明らかにした

✔️結果
予測性能は許容範囲内の性能を示し、重症化に影響する因子を明らかにした。

研究の詳細を以下で述べます。

2.1 研究目的:衝突事故の重症度因子はなにか

サウジアラビアではモータリゼーションと道路インフラが巨大な成長をしており、交通安全に関して懸念が生じています。
近年、機械学習に基づくモデルは、衝突事故の重症度予測において統計的手法に代わる有望な代替手段として浮上してきています。しかし、これらの研究のほとんどは全体的な予測精度に焦点を当てており、重症度結果に対する重症度因子の個々の役割についての研究者の理解を向上させるものではありませんでした。

そこでA. Jamalらは、FNNを用いて死亡事故の要因をよりよく理解するための洞察を提供することに試みました。

2.2 研究手法:重症度を予測するFNNモデルを提案

A. Jamalらは交通事故データから重症度を予測し、重症度に対する個々の要因の役割を評価するためのFNNモデルを提案しました。

[データ]
・サウジアラビアのリヤドにある運輸省の交通安全部門から入手した3年間分(2017年1月~2019年12月)を対象としています。
・データは、地方の主要な15の高速道路に沿って収集されました。
・前処理後のデータセットには合計12,566件の衝突データが含まれており、その中には1320人分の死亡者データと7947人分の負傷者データが含まれます
・トレーニングデータ:10%、バリデーションデータ:10%、テストデータ10%

重症度区分別の頻度と割合の分布

[前処理]
・外れ値、重複記録、欠損値を除去し正規化しました。

[手法]
・バックプロパゲーション(BP)訓練アルゴリズムを用いて訓練した改良型のフィードフォワード・ニューラルネットワーク(FNN)を用いました。
活性化関数はロジスティック関数
・データセットの偏りに対応するために、重み付き二乗誤差をANNの学習に利用しました。(死亡事故を誤って予測した場合の誤差は、非死亡事故に比べて6倍のペナルティを与えました。)
・最適化には準ニュートン法を用いました。

NNの構造

[特徴量選択]
事故の深刻度との相関分析により、相関値が0.04以上のもののみを採用しました。以下9個が選ばれました。
・事故のタイプ ・気象状況 ・ADDT ・車両タイプ ・車線数 ・道路タイプ ・現場での損傷 ・平均速度 ・巻き込まれた車両の数

[画像・キャプション]

2.3 研究結果: 事故を防ぐために重要な要素を判明

結果、提案手法は許容可能なモデル性能を示し、研究によって重視すべき交通事故の要因がわかりました。

[提案手法の予測結果]
全体的な予測精度は約77.5%で、許容可能なモデル性能を示しました。

混同行列

[道路タイプの反応度分析]
縦軸の値が1に近いほど致命的な衝突の発生確率が高いです。
下図より、対向する交通の間に分離する物がない場合、衝突事故はほぼ正面衝突になってしまし死亡事故になる確率が高いことおがわかります。

道路の区分と反応度

車線数が増加すると、重症度が増加することがわかります。これは、車線が多いとドライバーは緊張感なくスピードを出しやすくなるためであるとも考えられます。

レーンの数と反応度

[天候の反応度分析]
晴れていると前方をよく見えるので、重症度は低いと言えます。対照的に、雨や霧や埃っぽい状況では、視界が悪く、道路も滑りやすいので重症度が増します。

天候が重症度に与える影響

[車両タイプの反応度分析]
バスと大型トラックは重症度が比較的低くなっていることがわかります。
これはバスや大型トラックの速度は低く、衝突しても衝撃を吸収しやすいからであると言えます。

衝突の重症度における車両特性の影響

[車両数と重要度の関係]
車両数が多いと重度の衝突になりやすいことが示唆されます。

衝突重症度に及ぼす車両数の影響

[衝突特性の反応度分析]
歩行者との衝突や、衝突中に車両が燃えてしまった場合は、死亡事故の確率が高くなる傾向があります。特に、歩行者が巻き込まれた衝突は、死亡事故の確率を約70%増加させます。

衝突特徴が重症度に与える影響

[現場損傷条件の反応度分析]
標識や電柱の損傷は、死亡事故の重要な指標となることがわかります。道標や電柱は通常、主要な車道から離れた場所にあるため、それらに損傷があるということは、車両が非常に高速で走行していたか、運転手が疲労のために居眠りをしていたかのどちらかであることを示唆しているのです。

現場の損傷状況が衝突重症度に及ぼす影響

[交通特性の反応度分析]
走行速度が速いと死亡事故が生じやすいことがわかります。
また交通量が多いと走行速度は下がり、またドライバーは周囲に気を配るので事故は生じにくくなります。

どの様な要素が揃ってしまうと死亡事故が発生しやすいのかがわかりました。

研究紹介は以上です。

この様な研究があることで、より効果的な事故防止策が打てるようになるのではないでしょうか?

今回は「衝突死亡事故を防ぐ重要な要素をAIで導き出す!」について解説しました。

【現場にコミットする機械学習ノート・バックナンバー】


この記事で取り扱った論文:A. Jamal and W. Umer,”Exploring the Injury Severity Risk Factors in Fatal Crashes with Neural Network”,Int. J. Environ. Res. Public Health 2020, 17(20), 7466 DOI


※この記事は明日以降、会員限定コンテンツになります。同様に、過去の記事は全て会員のみ閲覧可能です。閲覧されたい方はこちらからご登録よろしくお願いします!(会員登録は無料です。)


業界ごとに記事を読む

PAGE TOP
0
Would love your thoughts, please comment.x
()
x