合併症になる未来も読める!?最新メディカルAI研究5選【週刊】

   
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最終更新日:2020/06/25


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最新研究をサクっとキャッチアップできる「今週の5本」シリーズ。今週のメディカルAI編では、以下の5つの最新AI研究に注目していきます!

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今週のラインナップ
1. 胸部検査による合併症を予測
2. COVID-19を含む肺炎の分類
3. 精神疾患の客観的診断をサポート
4. 目の老化を早期発見
5. すい臓がんをCT画像で見分ける

今回も手術支援AIベンチャーCEOの河野健一医師にコメントをいただきました!






手術支援AI事業を展開している河野先生のiMed TechnologiesはAIエンジニアを募集しています!関心のある方はこの記事の下部をチェック!

胸部検査による合併症を予測

これまで臨床医が胸部の疾患を診断する方法としては、CTガイド下生検法または経気管支肺生検法のどちらかを選択しなければなりませんでした。 そのうちCTガイド下生検法は、感度が高く胸部病変の生検に適していますが、経気管支肺生検法よりも合併症を引き起こすリスクが高いという問題があります。

そこでアメリカの研究者らは、CTガイド下生検における合併症を予測するAIを開発しました。CTガイド下生検を受けた796人の患者のデータを収集し、機械学習を含む統計的な手法で分析しました。結果、合併症は約15%で発生し、中でも気胸が一般的であることが分かりました。また、合併症の重症度は65.5パーセントから83.5パーセントの範囲で予測でき、小さな病変が最も強い予測因子となることが分かりました。

こうしたAIは、 胸部放射線科医が合併症を正確に予測し、より良い治療が行われることにつながるでしょう。

ソース:CT Fluoroscopy Guided Thoracic Biopsies (CTTB) Are Highly Accurate and Safe: Outcomes and Predictive Modeling of Complications Utilizing Machine Learning

河野先生のコメント

治療方法や検査方法の選択はとても重要です。ガイドラインで大まかな基準が決められていることが多いですが、明確に決められるものではなく、グレーゾーンが大きいのも医療の特徴です。安全性は重要な項の1つです。

本研究では肺の検査の合併症の予測を行っています。この研究が現場で応用されるようになるためには、まず、現状はどのようになっているのかを知ることが必要です。現場の医師は、15%、すなわち7人に1人は合併症を起こるということを知っていて、それでもなお検査を行っていることになります。そこには長年蓄積されたデータや経験があるはずです。

私は胸部疾患の専門医師ではないので分かりませんが、現場の医師5人くらいにインタビューすれば、現場の概要が分かり、この研究成果を実用化するために何が必要かが分かってくると思います。

関連記事: 「食べ物が飲み込めない」障害を調べられる?ディープラーニングで嚥下診断

COVID-19を含む肺炎の分類

日本や欧米ではピーク時よりは感染者数が減少してはいるものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は未だ治療薬もなく、世界的な脅威です。ここ数カ月の過労が蓄積された医療従事者の負担を軽減させる上でも、COVID-19症例とそうでない症例を迅速に区別するシステムは引き続き必要です。

そこでカナダの研究者らは、胸部X線画像からCOVID-19による肺炎を見分けられるAIを開発しました。さらに、このAIは、細菌性や他のウイルス性など、他の種類の肺炎を検出する際にも使用できる可能性があるといいます。こうしたツールを他のCTスキャンなどの結果と組み合わせて使用することで、臨床経験の少ない医師の意思決定をサポートしてくれることが期待できます。

AIを用いたCOVID-19肺炎診断ツールの研究事例は世界中で見られますが、 どのツールが現場で使われるようになるのかも、今後も注目のポイントです。

ソース:SFU, Providence Health Care develop AI tool for quicker COVID-19 diagnosis

河野先生のコメント

胸部X線画像のCOVID-19肺炎のAI診断は多くの研究が発表されています。その多くはCOVID-19肺炎かどうかを見分けるものですが、現場としてはそれ以外の疾患もできるだけカバーして欲しいというのが本音と思います。

本研究では他のタイプの肺炎も鑑別できる可能性が示されています。欲を言えばそれ以外に腫瘍なども判別できることが望まれます。

「今後、どのツールが使われるか・広まるか」というひとつの答えはここにあると思います。すなわち、多くの疾患を認識してくれる汎用性の高いツールが現場では使われるようになる可能性が高いと思います。そのためのアプローチには汎用性の高いAIの開発だけではなく、複数のAIを上手く統合するなどの方法もあると個人的には考えています。

関連記事:顔を見れば睡眠の質が分かる!?「メディカルAI」最新研究5本(2020年5月第2週版)

精神疾患の客観的診断をサポート

現在の精神医学においては、客観性の高い診断ツールがありません。特に、双極性障害(BD)と統合失調症(SZ)の鑑別診断の確立は非常に困難となっています。そのため、客観的な指標となるような、両者それぞれに特有のバイオマーカーの発見が求められています。

そこでフランスの研究者らは、合計416人分の血中バイオマーカーと認知テストの結果を統合し、BZとSZの鑑別診断結果を予測するAIを開発しました。このAIでは、BDと非BD、SZと非SZの分類においては感度がそれぞれ80%、84%と高くなりました。ただし、BDとSZの区別においては感度71%と中程度となりました。

まだまだ研究は必要ですが、バイオマーカーのような客観的要因を紐づけることによって、精神医学の鑑別診断は進歩していくことでしょう。

ソース:Precision psychiatry with immunological and cognitive biomarkers: a multi-domain prediction for the diagnosis of bipolar disorder or schizophrenia using machine learning

河野先生のコメント

精神疾患は客観性の高い診断が最も困難な領域の1つです。本研究では、2つの鑑別が難しい疾患を採血から得られる血中バイオマーカーの情報によって客観的に区別できないかどうかという試みが行われています。

ここで重要なポイントは、教師データの精度です。精神疾患はCTやMRIの画像で客観的に診断できるものではありません。医師が客観性を求めながらも主観的要素も含めて診断しています。そのため、教師データそのものが間違っている可能性があります。

このような場合、どのように教師データを作成したかは大変重要になります。例えば、医師3人で別々に診断し、意見が分かれる場合は3人で議論して決定するなどとすれば信頼性は上がりますが、とても大変な作業です。

このように真の正解(英語ではground truthと言います)が明確でない場合は、学習したモデルによる精度検証には、より慎重さが求められます。ハードルは高いのですが、グレーゾーンがあるということは、AIにより新しい分類や考え方が見つかる可能性も秘めています。

関連記事:統合失調症を正確に見つけるための技術

目の老化を早期発見

ものが歪んで見えたり視野の中心が黒くなったりする病気である加齢性黄斑変性症は、先進国において失明の最も一般的な原因です。病気の発見が遅くなればなるほど視力の回復が困難となるため、早期発見が治療の鍵となります。

そこでイギリスの研究者は、光コヒーレンストモグラフィー画像と自己組織化マップを組み合わせて、加齢性黄斑変性症を予測するAIを開発しました。このAIでは、片目が加齢性黄斑変性症だと診断された人が、もう片方の目も加齢性黄斑変性症へ進行するかどうかを予測します。特異度は90%で、6人の専門家のうち5人よりも優れた結果を示しました。

こうしたAIにより、専門家の経験値に関わらず、早期発見につなげていくことができるでしょう。

ソース:Predicting conversion to wet age-related macular degeneration using deep learning

河野先生のコメント

本研究を実用化する上で、現場の眼科医に1つ確認するとすれば、「この課題に対する現状の対策」です。具体的には、加齢性黄斑変性症の早期発見をどのように行っており、予測を間違えるとどうなるのか、ということです。私は眼科専門ではなく経験がありませんので、このように現場での課題感を聞いてみたいと思います。

今は、データさえあれば、特に画像診断に関しては医師の目も上回る時代に突入してきました。次のステップは、そのAIの能力をどのように活用すれば、現場で使ってもらうことができるのか、現状を改善することができるのかということです。そこには泥臭い作業が必要で、それを行うことができるチームや企業が現場で使われるAIを提供できるようになると個人的には考えています。

関連記事: 高齢者の転倒を防げ!AIで突発的な転倒を予測

すい臓がんをCT画像で見分ける

アメリカにおいて、2030年までにすい臓がんで亡くなる人の数は、がんによる死亡者数の第2位になると予想されています。現在、すい臓がんの診断は、放射線科医をはじめとする専門医が行なっているため専門医の能力に依存することが多く、 2cmよりも小さい腫瘍の約40%は見逃されてしまっていることが指摘されています。

そこで台湾の研究者らは、すい臓がん患者370人と対照者320人のCTデータを機械学習させ、CTデータからすい臓がんの有無を判別できるAIを開発しました。このAIは、最高で感度0.990、特異度0.989、精度0.989となり、すい臓がん画像を正確に識別できることが分かりました。また、2cm未満の腫瘍の検出もできました。

こうしたAIにより、 放射線科医の診断精度がより高まるでしょう。

ソース:Deep learning to distinguish pancreatic cancer tissue from non-cancerous pancreatic tissue: a retrospective study with cross-racial external validation

河野先生のコメント

本研究は感度・特異度・精度ともに約99%と素晴らしい値を示しています。これを臨床現場で導入する際には、専門医が見落としやすい画像に対して、どの程度の精度が出たのかが気になるところです。区別しやすいものとしにくいものは人間もAIも似たような傾向になります。

医療画像のAIに興味を持っている方は、本論文のサイトに飛んで図を眺めることをお勧めします。実際にAIがどこを腫瘍と認識したかを示すheatmapや、人間とAIがそれぞれ見落とした画像が提示されています。私は消化器の専門ではありませんので、肌感覚は分かりません。ただ、正常と腫瘍という鑑別ではなく、膵炎や膵管拡張などの所見があった場合にそれを膵がんが伴っているかどうかの判断を行っているということが分かります。

このように具体的に見ていき、その上で専門家にインタビューすると臨床現場での応用への道筋も見えてくると思います。

関連記事: 画像認識AIは、患者と医師の良きパートナーになる【日本メディカルAI学会レポート第2弾】

研究紹介は以上です。また次回をお楽しみに!

一緒に働きたいエンジニア募集中!

メディカルAIシリーズでおなじみの河野先生は、現在AIエンジニアを募集しています。

「私の会社、iMed Technologiesでは、世界の手術をより良くしていきたいというビジョンに共感し、一緒に医療現場を変えていきたい、新しい未来を作りたいエンジニアを募集しています! 医療データは豊富にあります。お気軽にご連絡下さい。」

連絡先: vyr01450☆gmail.com(☆を@に変えてください)
Twitter:@CeoImed

河野 健一(こうの・けんいち)先生プロフィール

手術支援AIを開発している株式会社iMed Technologiesの代表取締役CEO。

東京大学理学部数学科卒。京都大学医学部卒。グロービスMBA修了。医師(脳血管内治療指導医、脳神経外科専門医、脳卒中専門医)。

脳神経外科医師として医療現場で16年間勤務。現場で脳血管内手術の課題を感じ、「世界に安全な手術を届ける」という理念を掲げ、2019年4月にiMed Technologiesを設立。現在、くも膜下出血や脳梗塞に対する脳血管内治療のリアルタイム手術支援AIを開発中。

HP: https://imed-tech.co.jp/

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