最終更新日:2020/05/15

食品の品質管理は、安全でおいしい食品の提供に欠かせません。しかし、食品の品質管理の現場には、まだまだ多くの非効率・高コストな課題が残されています。
AIは食品の品質管理に改革をもたらすことが期待されています。この記事では、食品の品質管理にAIを活用し、効率化や精度向上に成功した研究事例をご紹介します!
フレーバー評価をAIで定量化・自動化!

食品の味や香り(フレーバー)は、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)を用いた嗅覚測定器による分析や、訓練を受けたパネリストによる官能評価試験によって品質が評価されます。しかし、既存の方法では、多くのサンプルを一度に評価できない点や、定量性に欠けるといった問題がありました。
中国の研究者らは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)というAIアルゴリズムを用いて、嗅覚測定器の結果予測を試みたところ、約93%の正確さで予測できることが分かりました。
こうしたAI導入により、短い時間で多くのサンプルのフレーバー評価ができるようになるでしょう。
ポータブル近赤外分光計の精度がAIで向上!
近赤外分析は、食品成分の分析によく使われる非破壊検査の1つです。この分析法の問題点は、分析装置が非常に高価で、スペースを取るものだということです。ポータブルタイプの安価な近赤外分光計もありますが、現場で使用するには精度の良さに欠けます。
スペインの研究者らは、ポータブル近赤外分光計と機械学習を組み合わせました。結果、ビールのアルコールの有無の分析においては、機械学習によって分析精度が向上できることが分かりました。
これまでは精度が低くて使い物にならないとされていた測定機器も、AIが精度の高さを補ってくれることで、現場で重宝されるようになるかもしれません。
AIが食品の色みやテクスチャー評価の結果を予測!

ビールの品質評価では、色味や泡の寿命、炭酸の口当たり、苦み、そして全体的な好みといった、多くの項目について測定・評価しなければなりません。先も述べたように、高価な測定機器や人の官能評価に依存した評価方式は、多くの時間とコストを要します。
オーストラリアの研究者らは、17種類のAIアルゴリズムを用いて、ビールの品質評価結果の予測を試みました。結果、人の評価とも一致する高精度な予測ができることが分かりました。
AIが人間と同じような”味覚”や”嗅覚”を持てるようになったら、消費者モニターいらずの時代が訪れるかもしれません。
AIが近赤外分析データから官能評価の結果を予測!

チョコレートのなめらかな舌触りは温度調節作業の賜物です。繊細なチョコレートの品質評価においても、pH、糖度、粘度、色などの物理化学的データや、苦味、塩味、酸味、甘味、旨味の強度といった官能評価データの収集が必要です。この作業においても、近赤外分光計による測定や、人による官能評価試験実施が必要で、多くの手間がかかります。
オーストラリアの研究者らは、近赤外分光計による分析結果から、pH、糖度、粘度、色などの物理化学的データや、人の官能評価データの結果を高精度で予測できるAIの開発に成功しました。
AIの活用により、近赤外分析を行うだけで、人の官能評価プロセスを省略することができ、多数のチョコレートの品質評価を迅速に進めることができるようになります。
AI搭載の匂い測定器で生産地域や品種を分類!

ワインには数多くの香り成分が含まれており、複雑な味わいを生み出しています。ワインの価格を決定するには、GC/MSによる香り成分の分析結果や、品種や年代、発酵プロセスに応じて、ワインを適切に分類する必要があります。これらの品質評価の作業も時間や労力を要するため、AIによる効率化の余地があります。
中国の研究者らは、金属酸化物半導体センサーにAIを搭載した独自の香りセンサー「E-nose」を開発し、 E-noseを使ってワインの香りから生産地域、品種、年代、発酵プロセスを識別・分類することに成功しました。
こうしたAI技術が発達することで、一企業に一台、”AIソムリエ”が配属されるようになるのかもしれません。
AIが不良品を自動で選別し、取り除く!

コーヒーの販売業者の苦労の種の1つは、不良なコーヒー豆を取り除く作業です。SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)が定める13種類の不良コーヒー豆を目視と手作業で取り除く作業は、かなりの手間がかかります。現在は、AIやロボットアームによる自動化が進んでいますが、AIに不良豆の特徴を学習させる過程も、膨大な時間とコストを要するのが現状です。「良い豆」と「悪い豆」それぞれの画像を用意するのが人間だからです。
台湾の研究者らは、画像生成技術である「GAN」を用いて、AIに学習させる不良豆の架空の画像データを生成し、このデータを学習させて、コーヒー豆分別AIを作りました。その結果、人間がデータを用意する場合と同じようなスピードでデータを集めることができ、AIに学習させることができました。
AIは万能に見えますが、AIを作るためには大量のデータが必要です。食品の良し悪しをAIに判別させるためには、データ集めをいかに行うかが重要となってきます。
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