三宅陽一郎のAI論「ゲームの上の人と人工知能」〜共存の時代を目指して〜

   

ゲームの本質と特徴

ゲームとは箱庭である。この世界の現象をつかまえる籠である。それは、一定のルールの上に人間が参加できる動作と運動の集合であり、人の活動を一つの時間と空間に閉じ込める装置でもある。

ゲームをはじめると人間は、その意識をゲームによっていっぱいにする。ゲームと人間との間に「運動と変化」の閉じた循環を作り出すこと、世界内世界として優れた完結性を持つこと、それがゲームの本質であり、ゲームはその循環を通じて、人間の内側からそのゲーム特有のものを引き出す。闘争心、功名心、イマジネーション、論理、仲間意識、敵対意識、などである。だから、ゲームとは人間をあばき理解する装置でもある。

ゲームを特徴づけるのは、そのデザインされた時間と空間である。ゲーム内の時間の進み方は、たとえば将棋などでは考慮している間は流れていない。一方、「スーパーマリオブラザーズ」(任天堂, 1985)のようなアクションゲームでは現実と同じように時間が流れ続ける。ゲームにおける「時間」はターンベースとリアルタイムの間のいろいろなバリエーションを持つ。

また、空間に関しては、やはり囲碁のようにマス目が完全に区切られているゲームから、アクションゲームのように連続な凸凹地形を扱うものまである。大雑把に分類すると、ターンベースで離散的な空間はボードゲームのデザインの根幹であり、リアルタイムかつ連続地形はデジタルゲームのデザインの根幹である。極論すると、前者は論理的であり、後者は直感的と言える。いずれにしろ、人間の思考、感覚、直感をゲーム内で完結し、ゲームと人間の間の循環を作り出すことが、ゲームデザインの妙と言える。

人工知能はゲームの外に出られない

人工知能はゲームの上でしか動作できない、と言ったら、かなり唐突かもしれないが、これは人工知能のある一面を表している。現在の人工知能の限界とは、

・人工知能は自分で問題を作り出せない
・人工知能は与えられた問題の中で動作する
・人工知能は与えられた問題を変形することができない
・人工知能は問題の外へ出ることはできない

である。これを「フレーム問題」という。「フレーム」とは問題設定のことであり、

・操作対象
・操作
・目的
・状態の定義

から成る。大雑把に言えば、「フレーム」とは「ゲーム」のことである。人間がゲームを設定し、人工知能はそのゲームの上で動作する、そして、決してゲームの外へ出ることはできない。それが、人工知能の原理である。自動翻訳であろうが、自動運転であろうが、検索エンジンであろうが、人間が「フレーム=ゲーム」を設定し、人工知能はその上で動作する。フレームに設定されていないものを人工知能は知覚せず、考慮せず、操作できない。

論理型のゲームは人工知能が圧勝

人工知能が得意なゲームとは、完全に定義がなされたゲームである。将棋、囲碁、チェスなどがこれに属する。人工知能が現実世界で活躍できない理由には、人工知能の3大問題「フレーム問題」「シンボルグラウンディング問題」「心身問題」がある。

・フレーム問題 … 前述した
・シンボルグラウンディング問題 … 世界を有限なシンボルで表現できない
・心身問題 … 身体と知能をどのように結ぶか

完全に定義がなされたゲームとは、フレームが固定され、ゲーム特有の定義によってゲーム要素とシンボルが明確に結合され、身体運動を特に用しないゲームのことである。このようなゲームは人工知能の持つ欠陥がすべて回避されている。

そして、第三次AIブームの成果とは、完全に定義されたゲームの中では、人工知能は人類を遥かに凌駕する知能を獲得することを立証したことである。完全に定義された論理だけを必要とするゲームでは、人間はもはや人工知能に勝てない。この10年ほどの急激な変化であり、10年前(2010年)であれば、そんなことは言えなかった。これはディープラーニングの功績でもある。

人間が人工知能に勝てるゲームもある

一方で、連続時間、連続空間のゲームでは人間の方に分がある。人間の脳のニューロン伝達スピードはコンピュータのプロセッシング・スピードより圧倒的に遅い。しかし、多数のニューロンを同時発火させることで、連続時間、連続空間に渡る極めて高い解像度かつ連続的な認識を形成することができる。その時間と空間に渡る「のっぺりした思考」は、現在の人工知能がディープラーニングによって、ようやく足を踏み入れたところであり、人間に遠く及ばない。

たとえば、人間とキャラクターで3次元空間のゲームで「かくれんぼ」をするとしよう。人はほんの細かな隙間や、水の反射や、足音、草の揺れ、から他のキャラクターの気配を察することができる。ところが、キャラクターの人工知能は、そこまで細かな認識を形成することができない。人工知能ではセンシングの拡大には莫大な計算負荷を伴うからである。

身体を3次元空間、連続的時間の中で動かす能力において、人間と動物は長い進化の中で特化した知能を持っている。人工知能がそのような知能を獲得するには至っておらず、これからも獲得することは長く困難である。一方で、問題が明確に定義され、ロジカルな思考で完結するゲームは人工知能が人間を凌駕する。人工知能は与えられたフレームの中で、人間より細かく問題を分割し、時間方向に人間よりずっと先までシミュレーションすることが可能であるからである。

おわりに

これからは人と人工知能が共存する時代である。どのゲームでは人工知能が圧勝し、どのゲームでは人が有利なのかを知り、お互いの得意な分野で活躍することで、ゲームを超えて協調するのである。世界をゲームに分割しよう。分割されたゲームごとに人間と人工知能を割り当てよう。協調の仕方を考え、高いレベルのパフォーマンスを出して行くことで、世界を人と人工知能で良くすることができる。

三宅 陽一郎(みやけ・よういちろう)

ゲームAI開発者。

京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。理化学研究所客員研究員、東京大学客員研究員、九州大学客員教授、IGDA日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、DiGRA JAPAN 理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。

著書に『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『人工知能の作り方』『ゲームAI技術入門』(技術評論社)などがある。

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サイエンスライター・アイブン編集者。東京大学大学院総合文化研究科修士課程ならびに科学技術インタープリター養成プログラム修了。過去に複数の科学系ウェブメディアの編集長を務めた。『科学雑誌Newton』『MITテクノロジーレビュー』『M3.com AIラボ』等でも執筆・翻訳を担当。手がけた記事は500記事以上。Twitter:@minamoca_lab

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